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短編小説 hの高い日

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hの高い日

SF短編です。

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「昨日のh予報見た?」

 妻が言った。

「見たさ、今日は外出できないな」

「このところひどくなってきているわ」

「そうだな。誰がこんな世界にしたのかよくわからないが」

 hとはプランク定数のことである。もう50年も前、なぜかhの値が揺らいでいることに科学者が気づいた。

 日ごと、激しくなり様々な怪異現象が起きた。怪異?いや怪異ではない。怪異というよりは人が日常、体験していないだけで、微粒子の世界ではしょっちゅう起きることだからだ。

 巨視的世界では、モノの位置とエネルギーを正確に決定できることになっている。ところが、原子や電子ほどの大きさになると、量子効果によりどこにあるのか見つけると、途端に運動量つまりエネルギーが不確定になってしまうのだ。

 何かの存在とは広がりを持った波なのだ。つまり、点などというものは存在できず、ぼやっとした雲のようになっている。hの高い日には人も同じだ。

 かつてまで、hの値はとても小さかったので、人が動いているような世界ではこんなことはおきなかった。

 しかし、日ごと、hの値の変動幅は大きくなり、ついには危険な事態がおとずれた。

 ある人を捕まえようとすると、その人の運動量が不確定となり、突然巨大なエネルギーが発生して蒸発してしまったり、移動速度をモニタリングすると突然別な場所に飛んでしまったりという危険な事態が訪れた。また、自動車がビルを何事もなかったかのようにすり抜けるといった現象が起きた。自動車が波であるのなら、携帯電話の電波のように建造物の内部にまで侵入することができるわけだ。

 科学者たちは、原理も分からぬまま模索し、ついに変異するhの変動を遮断するフィルターを作りだすことに成功し、各戸に配布した。hが変動する理由について仮説が出され、いくつかは定量化に成功した。こうして天気予報ならぬh予報が連日報道された。

 根本的な解決は、できず人々は遮断フィルターのほどこされたトンネルを通って出会い、細々と暮らしている。

「それにしても」

 妻は言った。

「もうどうしようもないのかしら」

「どうしようもないだろうな。自然のすることだから」

「あまり楽しみもないわね」

「それなりにあるだろう。ビリヤードなんてどうだ。もうプロはいない」

「そうね。もうギャンブルの一種に成り果ててしまったけど」



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