FC2ブログ

丹沢山塊放浪記 その3

ここでは、「丹沢山塊放浪記 その3」 に関する記事を紹介しています。
五人は大倉に到着した。朝八時くらいだ。駅まで早朝に行って、電車に乗り、秦野からまたバスで行くのだ。この時点でつかれた顔している奴がいる。菊地だ。菊地は腕力があるくせに、弱気な生物で、しかも高山病に異常に弱い。二〇〇〇メートル級以上になると、もうぐったりし始める。実際、そういう日本人もいることはいて、それが菊地当人なわけだが、なぜか山岳部にいる。普通は三〇〇〇メートル級までは大丈夫で、富士山くらいの高さである時間滞在すると、大抵の日本人は高山病様相を呈する。

菊地は「もういいじゃない、秦野から塔ノ岳までということで」といった。「なにいってやがんだ、今更だぞ」石田が引っ込むわけないのに。ついに大倉から、登坂を始める。もう、最初から急坂なのだ。これが大倉尾根、通称「バカ尾根」である。いきなり息がきれてしまう、おまけに樹林帯で霧がかかっており、蒸す。暑いし、もうコンディションとしては最悪かもしれない、いや、もっと最悪なことも過去にはあった。石田がどうしても梅雨明け前に北アに行きたいというので、行ったらもうすごい雨、稲妻が横に走っている。誰かが昔捨てた錆び缶詰がじりじりと音を立てていた。恐怖だったよなあ、と菊地は思った。

まあ、それに比べればましだ、と菊地は思いなおした。コースタイムは六時間、我々は重い荷物を担いでいるので、登りはほぼコースタイム通りになる。六時間の我慢だ、それですめばいいが。それにしても人の足幅を無視した木組みの階段、どう見ても登山の邪魔をしているとしか思えない。実際、そうなのかもしれない。もしかしたら人のためではなく、雨で道の土砂が流れ出すのを防ぐためのものかもしれない。

しばらく歩いて、いつも休憩をとっているベンチのあるブナ林の木陰についた。「一本とるぞ」と石田が言った。休憩のことを言っているわけだ。いきなりビールを飲みだす田口。もうこいつはどうしようもない酒飲みだ。ほっておかないと絡まれたらイヤだ。ごく普通のハイキング姿の夫婦が軽快な足取りで通り過ぎていく。いいなあ、ああいう登山がしたいもんだ、と菊地は思った。

休憩は10分と決めてある。なので、一同はまた歩き出した。この長い尾根を。



関連記事
スポンサーサイト



コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
copyright © 2006 2020 文豪ストリーキング all rights reserved.