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丹沢山塊放浪記 その7

ここでは、「丹沢山塊放浪記 その7」 に関する記事を紹介しています。
翌日は爽快な朝ではあったが、霧が深い。石田は地図を見ながら、檜洞丸から最短ルートで林道まで下り、そこから西丹沢の丹沢湖を目指すことにした。出発した後も景色は素晴らしいものであった。

だが、である。途中からものすごい急坂の下りになり、あまつさえ、道が崩壊している。歩くたびに土くれがごろごろと転がり、砂が流れる。いつの間にかブナは消え、ヒノキの植林になっている。針葉樹は保水力が低いのでこのような急坂になるととたんに道が悪くなる。「おい、これどうなってんだよ、ちゃんとした道のはずだぞ」石田が言った。「いや、だから中島さんが心配してたんですよ。東海自然歩道なんて崩壊自然歩道だって」合田が言ってはならぬことを言ってしまった。だが、石田の決意を変えられはしない。「みんな、気をつけろよ、このまま谷底まで流されちまうぞ」足場は最悪だ。合田は長い時間、格闘していたように思ったが、時計を見ると二時間ほどだ。ようやく林道が見えてきた。

林道歩きほどつまらないものはない。舗装道路を汚い恰好で、大荷物をしょって歩くわけだ。足に舗装道路の衝撃が痛い。林道を歩くことさらに一時間以上、やっと丹沢湖に着いた。もう、そこは観光地化されており、全く三人の恰好には似つかわない場所ではあった。さっさとしよう、というので、売店でビールをたっぷりと買い、田口はウイスキーのハーフボトルを買った。合田に至っては、アイスなんぞ食っている。「ごうだー、お前、山岳部の禁をやぶってはいかん」と石田は冗談混じりに言った。「さっさと上るぞ、合田、地図確かめろよ、コンパスあるよな」「なくしましたあ」「普通なくすかよ、俺の使っていいから」

三人はルートを決めた。まずは林道を戻り、畔ガ丸を目指して標高をかせぐことにした。こうして東海自然歩道めがけて突っ込んでいった。山道は最初は順調のように見えた。ところが、途中で踏み後のように心細いものになり、ついには単なるヤブになってしまった。にもかかわらず、看板はあり、田口は見てはいけないものをみてしまった。

「クマ注意!昨年、A大学の隊がツキノワグマに襲われています。大きな声や鈴で近寄らないようにしましょう」やっぱりか、中島さんの言ってたことは正しかった。田口はきょとんとしている。「なにやってんだ、鈴出せよ、歌をうたいながら歩こう」石田は言った「大丈夫だからあるこうぜ、ほれ、合田、川口浩探検隊シリーズの替え歌、嘉門達夫が歌ってただろ、あれにしよう」「じゃあ、うたいますよ、かわぐちひろしはー、洞窟にはーいるー、カメラさんと、照明さんのあーとにーはいーるー」まったくいかれている、と田口は思ったが、熊に襲われてはかなわないので大声で歌った。

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