FC2ブログ

第2話 祐子のアパートで

ここでは、「第2話 祐子のアパートで」 に関する記事を紹介しています。


 私はコンビニで食べ物を物色したり、雑誌を読んだりした。こんなことになってしまって、自分はどうかしてる、と私の頭をかすめるものがあった。そんなことを考えているうちに、祐子が横にいた。


「待った?」


「いや、10分くらいだから」


「そう、ごめんね。どこかいいところとか知ってる?」


「じゃあ、少し表通りになるけれど、バーでいい?」


「いいわ」


「じゃあ、行こう」


 祐子はやたらと私の手をまさぐり、手をつなぎたがった。人目もあるし、どうしたものかと私は思った。すぐにバーについた。


「たまに、来る店だよ」


「そう、いいね。入ろう」


 二人で店に入り、カウンターに座った。ここは、正直にいって流行ってはいない。だが、マスターが無口でジャズの音楽が気に入っていた。


「何か飲みたいものはある?」


「マルガリータ、がいいかな」


「じゃあ、マルガリータとジンフィズ」


 マスターは黙って酒を用意している。


「あのね、私はあなたみたいな人、ほんとはね、私とは無縁だったしね」


「僕がどういう人か、祐子さんは分かってないんじゃないかな」


「分かるんだ。女には、そこまで見えちゃうんだよ」


「そう、不思議なものだね」


「奥さんは?心配してないのかな。帰りが遅いとか」


「いつも仕事で遅いし、もう、話さえしばらくしてない。夜も一人で外食だし」


「そう。あなたも可哀想な人ね」


「そんなもんだろう。人間、だれしも一人だって」


「そうじゃない、ってあたしは信じたい」


 祐子は私の二の腕にしがみつきながら、そういった。


 「一人で生まれて、人に裏切られて、そうして一人で死んでくのが人ってものさ」


 私は半ば皮肉めいた笑いを浮かべながら言った。祐子は悲しそうな顔をして言った。その後はかなりのグラスをからにした。


 「そんなことない、何か楽しいことがあればこその命じゃないの」


 「そう。それは人の考えによるかもね」


 実際のところ、私は人生を楽しんでもいないし、ただ、ただ苦しいものとしてしか受け入れられない、そういう人間だ。


 「こうしていて、私は楽しいわけ、わかる?」


 「ああ、ごめん、僕は祐子さんの気持ちにこたえられていないかもしれない。僕は君を金で買おうとした人間だ」

 

 「男なんてそれが楽しみなのじゃないの!なにいってるの、ちょっとは自信もってもいいんじゃないの」


 「そうか」

 

 「いい、私は今、今この場が楽しいの。わかるかな、分かるまで飲む?」


 「いやそいつはちょっと」


 「だって、今日金曜日じゃない、朝まで飲んでいたっていいのよ。あなたの奥さんだって放ったらかしな訳でしょ」


 「そうだけども、祐子さんはどうかと。明日も仕事だよね」


 「明日はやすみよ。まったく、事前にちゃんと店のページを見てから来るものなのよ、誰それがいつ出てるかとか」


 「そう」


 祐子はにやにやとしながら、私を見ている。何か考えてるのだろうか。まったく、女というのは分からない。


 「はっきり言って、あたしはもう下位クラスで暇なほうの女なの。そんな子に声かける人もいるけども、ま、そういうのに限ってどうしようもないやつよ」

 

 「どうしようもない、って。僕だってそうじゃない」


 「いや、そんなことない、いきなりやられちゃったりとか、ひどいものよ。もちろんお店に通報して、場合によっては警察沙汰だわ」


 「そんな怖いとこだったんだ」


 「だから、あなたの場合は、私が襲っちゃったので、それはまた別。私が通報されるほうよね」


 随分と生気を取り戻したように祐子はにやにやとしながら、言った。


 「ねえ、襲われちゃったりするのって、どう?」


 「どうもこうも」


 「ははは、面白い。なんか面白い」


 私は黙って、祐子の笑顔を見ていた。


 その晩、酔い潰れた祐子をアパートまで背負っていった。


 「祐子さん、着いたよ。毛布あったらちゃんとあったまって寝るんだよ」


 「あーに、いってんだよ、まだ、かえっちゃだめだめー」


 酔っ払っている。このままでは吐くだろう、そう思ってアパートに入ってトイレに連れて行った。急に祐子が我に返ったようにいった。


 「うそだよーん。ちゃんとしてるもん。今日は泊まって、いっしょに寝よ」

 

 「うーん」

 

 私はしばらく考えた。祐子は甘え声を出している。


 「へんなことしないって、約束してくれ」


 「女じゃあるまいに、なぁにがヘンなことよ。もう襲ったりしないから」


 「わかった」


 「いっしょに温め合って寝るの」


 「いいよ。そうしよう」


 その晩、祐子のアパートに泊まり二人で抱き合いながら毛布で寝た。その毛布は都会の中の小さなシェルターのようにも思えた。様々な害を与える都会の夜、その害から守るシェルターのように。


関連記事
スポンサーサイト



コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
https://starttonext.blog.fc2.com/tb.php/410-219373a9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
copyright © 2006 2020 文豪ストリーキング all rights reserved.